マーチンゲールの法則

マーチンゲールの法則で競馬は勝てるのか?
理論上の「必勝法」が「破産法」に変わる真実

「負けたら次は倍額賭ける。勝つまで続ければ、最後には必ずプラスになる」

古くからギャンブラーの間で囁かれる、通称「マーチンゲールの法則(倍プッシュ)」。一見すると、数学的にも理論的にも完璧な必勝法のように思えます。しかし、結論から言えば、これは現実世界においては「破産への片道切符」でしかありません。

なぜ理論上の必勝法が、現実では通用しないのか? 競馬における具体的なシミュレーションを通して、その恐ろしいメカニズムを解き明かします。

1. マーチンゲールの法則とは?

法則の内容は至ってシンプルです。負けた分を取り返すために、次の勝負で掛け金を「倍」にする手法です。

マーチンゲールの定義
  • 「勝つまで倍賭けを続ける」
  • 「1度でも勝てば、これまでの損失を全て取り戻し、最初の掛け金分の利益が出る」

理論上は、無限に資金があれば100%勝てる手法です。私も理論上は必勝法だと認めます。しかし、「理論上」という言葉には、残酷な罠が隠されています。

2. 現実世界にある「3つの有限」

マーチンゲールの法則が破綻する最大の理由は、我々が生きる現実世界が机上の空論とは異なり、すべてが「有限」であることに起因します。

① 資金の有限性(指数関数の恐怖)

例えば、単勝オッズ2.0倍の馬を狙い、1万円からスタートして倍賭けを続けた場合をシミュレーションしてみましょう。人間の直感を超えて、金額は爆発的に膨れ上がります。

回数 賭け金 累計損失額 勝った時の利益
1回目10,000円1万円1万円
2回目20,000円3万円1万円
3回目40,000円7万円1万円
4回目80,000円15万円1万円
5回目160,000円31万円1万円
8回目1,280,000円255万円1万円
10回目5,120,000円1,023万円1万円
11回目1,024万円2,047万円1万円
・・・(中略)・・・
20回目約52億円約104億円1万円
36回目約343兆円国家予算越え1万円

ご覧の通り、わずか10連敗しただけで、次回の賭け金は500万円を超えます。
さらに恐ろしいのは、「500万円のリスクを背負って、勝ったとしても得られる利益は最初の1万円だけ」という事実です。リスクとリターンが完全に崩壊しています。

② オッズの有限性(パリミュチュエル方式の壁)

ここが競馬において最も重要なポイントです。

カジノのルーレットとは異なり、競馬は「総投票数によってオッズが決まる(パリミュチュエル方式)」システムです。もしあなたが11回目の勝負で1,000万円を単勝に突っ込んだらどうなるでしょうか?

  • 元々2.0倍だったオッズは、あなたの大量投票によって1.1倍〜1.0倍に急落します。
  • その結果、的中しても「元返し」にしかならず、過去の損失(約1,000万円)を回収できなくなります。

つまり、金額が大きくなればなるほど、「オッズを自分で下げてしまい、法則自体を自分で破壊する」という矛盾が生じるのです。

③ メンタルの有限性

1万円を取り返すために、震える手で512万円の馬券を買うことができるでしょうか?
通常の精神状態であれば、5回目(16万円)あたりで恐怖心が理性を上回ります。途中で損切りをしてしまえば、その時点で「ただの大負け」として確定します。

3. 結論:必勝法ではなく「破産法」

数学的な確率論だけで言えば、9,999回外れても10,000回目に当たれば勝てます。しかし、現実世界には財布の底があり、オッズの壁があります。

マーチンゲールの法則の正体は、以下の通りです。

【結論】

100円の薄利を拾うために、
無限の破産リスクを背負う行為。

① 机上論: 無限の資金があれば、いつかは勝てる。
② 現実論: 負けが続いた時点で資金が尽きるか、オッズが崩壊して破産する。

※使えるシチュエーションがあるとすれば、オッズ変動がなく、レート上限のないゲームセンターのメダルゲーム程度でしょう。(それでもメダルの手持ちには限界がありますが……)